Finn Juhl and Danish Chairs |
北欧の国デンマークは、デザイン大国として知られています。 とりわけ 1940 年代から 60 年代にかけては歴史に残る優れた家具が生み出されました。
デンマークのデザイナーのなかでも、フィン・ユール (1912-1989) は、ひときわ美しい家具をデザインしたことで知られます。 優雅な曲線を特徴とするその椅子は、「彫刻のような椅子」
とも評されます。 当時の家具デザイナーたちの多くが家具の専門学科や家具工房の出身であるのに対し、フィン・ユールは美術史家になることを夢見ながらもアカデミーで建築を学び、建物の設計やインテリアデザインにたずさわるなかで家具デザインを手がけました。
身体を抽象化したようなやわらかなフォルムは座って心地よいばかりでなく、彫刻にも似た静謐な存在感を放ち、建築や美術作品、あるいは日用品と濃密に響き合いながら、空間の調和を生み出す役割をも果たしているようです。 |
幸福の国、デンマーク |
北ヨーロッパに位置するデンマークは、面積は日本の九州ほど、人口 66 万人に満たない小さな国である。 世界でもっとも幸福な国、あるいは居心地のよい空間や楽しい時間を意味する
「ヒュッゲ」 という言葉を思い出す人もいるかもしれない。 |
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'2022 7_22 「フィン・ユールとデンマークの椅子」 プレス内覧会展示風景・ギャラリートーク、プレスリリース、「フィン・ユールとデンマークの椅子」図録の抜粋文でご紹介しています。 |
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北欧の国、デンマークはデザイン大国 |
北欧の国デンマーク は、デザインの大国として知られています。 |
「フィン・ユールとデンマークの椅子」 展覧会の見どころと展示構成 |
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本展は、デンマークの家具デザインの歴史と変遷をたどり、その豊かな作例が誕生した背景を探るとともに、モダンでありながら身体に心地よくなじむフィン・ユールのデザインの魅力に迫る試みです。 |
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目次. Contents |
'2022 7_22 「フィン・ユールとデンマークの椅子」 プレス内覧会展示風景・ギャラリートーク、プレスリリース、「フィン・ユールとデンマークの椅子」図録の抜粋文でご紹介しています。 |
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【第 1 章. デンマークの椅子―そのデザインがはぐくまれた背景 Chapter 1. Danish Chairs―The Social Background That Fostered Their Design 】 |
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デンマークの家具デザインは、教育、医療、福祉といった社会システムと密接に関係しながら発展した。 その礎は、18 世紀から 19 世紀にかけて活動したデンマークの牧師であり、作家、教育者、政治家でもあったニコライ・フレデリク・セヴェリン・グルントヴィ(1783-1872)
による啓蒙運動によって築かれた。 いきいきとした学びから得た自信を支えに、よりよき勤勉な市民になることを目指すグルントヴィの教育理念に基づき、デンマークでは 1844 年に国民高等学校が設立されあらゆる人々に開かれた教育制度が確立した。 大衆のなかにしっかと根付く生活の哲学や価値観は、こうした教えの中ではぐくまれた。 |
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左・no.1-15 コーア・クリント 《サファリチェア》 1933 年 ルドルフ・ラスムッセン アッシュ、カンヴァス 660 x 660 x 720 SH350/660 x 480 x 430 SH360 織田コレクション(東川町) / 右・no.1-17 コーア・クリント 《デッキチェア(モデル NO. 4699)》 1933 年 ルドルフ・ラスムッセン チーク、籐、カンヴァス 580 x 1445 x 900 SH350 織田コレクション(東川町) |
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左・no.1-15 《サファリチェア 》 は 19 世紀に英国軍が使用していたノックダウン式(組み立て式)の椅子をリデザインしたものである. これは英国軍が移動しながら野営を行うことから考案された構造だが、 クリント はこの構造を踏襲しながらも、モダンなデザインに仕上げている。 / 右・no.1-17 《デッキチェア》 客船の甲板(デッキ)や庭先などで使用することを想定した折り畳み椅子。 1933 年の家具職人組合による展覧会で発表された。 クリント の数理的思考により、高い安楽性を確保しながら折り畳みを可能にするフォルムが導き出された。 |
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【第 2 章. フィン・ユールの世界 Chapter 2. The World of Finn Juhl 】 |
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フィン・ユールの家具の特徴は、軽やかな構造と繊細なフォルムにある。 「彫刻のような椅子」とも評されるその椅子は、古代エジプトやギリシャ美術に対する関心や、彼自身が好んだハンス(シャン)・アルプをはじめとする抽象彫刻にも似た造形感覚を感じさせる。
既成概念にとらわれない自由な発想をかたちにすることができたのは、優れた家具職人ニールス・ヴォッダーとの運命的な出会いによる。 ヴォッダーとタッグ組んだユールは、1937 年以降、コペンハーゲンの家具職人組合の展示会で毎年、新しい家具を発表し続けた。 一方でそのユニークなデザインは、
1950 年代以降にむしろアメリカで評価され、国連本部ビル内議場のインテリアデザインを任されるなど、建築家、インテリアデザイナーとして国際的に活躍することとなった。 |
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左・no.2-9 モーエンス・ヴォルテレン 《コペンハーゲンチェア》 1936 年 ニールス・ヴォッダー マホガニー、革 620 x 855 x 960 SH346 織田コレクション(東川町) / 右・no.2-10 フィン・ユール 《グラスホッパー チェア》 1938 年 ニールス・ヴォッダー Onecollection A/S / House of Juhl* オーク、ウォールナット、革 870 x 1010 x 930 SH340 織田コレクション(東川町) |
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左・no.2-9 モーエンス・ヴォルテレン はデンマーク王立芸術アカデミーでフィン・ユールの一年先輩にあたる。 この作品を制作したニールス・ヴォッダーをユールに紹介したのがヴォルテレンであった。 この出会いが後にフィン・ユールという世界的デザイナーを生むきっかけとなった。 / ・右 no.2-10 《グラスホッパー チェア》 1938 年秋のコペンハーゲン家具職人組合展示会に、ニールス・ヴォッダーから 2 脚のみ製作された作品である。 「グラスホッパー」 とは、バッタという意味である 。 複雑な形状をした部材が、様々な角度で接合されており、デザイナーの独創的なアイデアと職人の卓越した技術を垣間見ることができる。 2018 年にパリで開催されたオークションに、オリジナルの 1 脚が出品され、なんとおよそ 4 億円で落札された。 |
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【第 3 章. デンマーク・デザインを体験する Chapter 3. Experiencing Danish Design】 |
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本章では、来場者が椅子に実際に座ることのできる空間をつくり、デンマーク・デザインを体で味わうことのできる展示を試みる。コーア・クリントやオーレ・ヴァンシャーがリデザインした椅子から伝わるクラシカルな風格、庶民、の暮らしに寄り添うボーエ・モーエンセンの思い、
アルネ・ヤコプセンがホテルのためにデザインした椅子の人懐こいフォルム、ウェグナーのクラフトマンショップと遊び心、ポール・ケアホルムの研ぎ澄まされた感性、そしてフィン・ユールの独創性と心地よさ。
椅子に直に触れ、座り心地を確かめたり、座ったまま体の向きを変えてみたり、座っている人の姿を観察してみたりしたならば、デンマーク人のデザイナーたちが椅子をめぐる課題に向き合い、それをどのように解決したかを、文字通り体感することができるだろう。 |
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アルネ・ヤコブセン 《3300シリーズ》 1956 年 フリッツ・ハンセン HRウレタンフォーム,布、ステンレスパイプ no.3-1 730 x 790 x 720 SH360 / no.3-2 1260x 790 x 720 SH360 フリップ・ハンセン / ・no.3-3 アルネ・ヤコブセン 《スワンチェア》 1958 年 フリッツ・ハンセン 硬質成型フォーム,布、アルミニュウム,スチール 740 x 680 x 770 SH400 フリッツ・ハンセン /・no.3-4 アルネ・ヤコブセン 《エッグチェア》 1958 年 フリッツ・ハンセン 硬質成型フォーム,布、アルミニュウム,スチール 860 x 790 x 1040 SH370 フリッツ・ハンセン /・3-5 アルネ・ヤコブセン 《ドロップ》 1958 年 フリッツ・ハンセン プラスチック,スチールパイプ 455 x 545 x 885 SH460 フリッツ・ハンセン / ・no.3-6 ピート・ハイン、アルネ・ヤコブセン 《スーパー円テーブル》 1968 年 フリッツ・ハンセン ウォルナットベニヤ,アルミニュウム、スチール 750 x 750 x 720 フリッツ・ハンセン /・3-50 アルネ・ヤコブセン 《JAフロア》 1959 年 ルイスポールセン スパンスチール H1300 ルイスポールセン / ルイスポールセンジャパン |
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セクション5 デザイナーたちの挑戦 1940 年から 60 年代にかけて、デンマーク王立芸術アカデミーで学んだ若い世代のデザイナーや建築家たちが目覚ましい活躍をみせ、デンマークのモダン家具は黄金期を迎える。 フィン・ユール に学び、王立芸術アカデミー家具の 2 代目教授となったオーレ・ヴァンシャー(1903-1985)、庶民のための機能的な家具をデザインしたボーエ・モーエンセン(1914-1972)、抜群のクラフトマンシップにより数々の名作椅子を生んだハンス J. ウェグナー(1914-2007)、建築家であり家具や照明までデザインした多彩なアルネ・ヤコブセン(1902-1971)、金属製家具のデザインを得意としたポール・ケアホルム(1929-1980)ら、多くの才能あるデザイナーが活躍した。 椅子とは、人が座るための道具であり、座、背、脚という基本構造からなる。 そのシンプルな機能と構造にも関わらず、ここに並べられた 20 世紀のおよそ 30 年間のうちにデンマークで生み出された椅子を一望するならば、椅子をめぐり驚くほど多様な思考と発想があることがわかるだろう。 |
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左・ビデオ(こちらはコーア・クリント教授と彼の門下生たちです。) / 右・no.1-6 コーア・クリント 写真(複製)《レ・クリント》 |
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セクション1 デンマーク・デザインのはじまり 20 世紀初頭のヨーロッパは、ドイツで生まれたバウハウスを中心に、芸術、建築、デザイン分野で モダニズム運動が全盛期を迎えた。 北欧では、スウェーデンの建築家エリック・グンナー・アスプルンド
(1885-1940) が総監督を務めた 1930 年のストックホルム博覧会を通して、機能主義が本格的に紹介された。 アスプルンドが設計した建物は、鉄とガラスがふんだんに用いられ、
平坦な屋根と湾曲したファサードをもつ、伝統から解き放たれた建築だった。 |
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セクション2 デザインの父、コーア・クリント デンマークの家具デザインの発展において最も重要な出来事は、1924 年にデンマーク王立芸術アカデミーに家具科が創設されたことにある。 その初代責任者を務め、
デンマークの家具デザインを先導したのがコーア・クリント(1888-1954)である。 クリントは過去の優れた家具を実測、分析し、その構造、制作技術、機能などを徹底的に研究した上で、それを新たにデザインし直す「リデザイン」と呼ばれる方法を確立した。… |
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フィン・ユール(1912-1989)は、デンマークのモダン家具黄金期に活躍したデザイナーのなかで、異端な存在といえるだろう。 当時の家具デザイナーの多くは、王立芸術アカデミー家具科で教鞭をとるコーア・クリントの門下生か、あるいは家具工房の出身だった。 ところが、フィン・ユールは彼らとは異なり、家具デザインは独学だった。 もともと美術史家になることを志望していたユールは、それでは生計を立てられないと心配した父親の反対を受け、建築の道に進んだのであった。 |
お問合せ:tel 03-3823-6921 |
主催:公益財団法人東京都歴史文化財団 東京都美術館 |
参考資料:「フィン・ユールとデンマークの椅子」図録、 プレス説明会、PRESS RELEASE & 報道資料 、チラシ他。 |
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